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東京高等裁判所 平成7年(行ケ)247号 判決 1996年3月28日

東京都世田谷区奥沢6丁目2番2号

原告

サニーペット株式会社

同代表者代表取締役

岩崎峰雄

同訴訟代理人弁護士

相川俊明

同訴訟代理人弁理士

中川國男

神奈川県海老名市社家970番地

被告

株式会社栄

同代表者代表取締役

菊池典行

同訴訟代理人弁理士

島田義勝

水谷安男

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

(1)  特許庁が平成5年審判第22354号事件について平成7年8月31日にした審決を取り消す。

(2)  訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文同旨

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、意匠に係る物品を「ふとん・畳乾燥用支持枠」とし、別紙第一に記載されている態様によって構成される、登録第841398号意匠(平成元年4月21日意匠登録出願、平成4年3月27日意匠権設定登録。以下「本件意匠」という。)の意匠権者である。

被告は、平成5年11月26日、本件意匠登録を無効とすることについて審判を請求し、平成5年審判第22354号事件として審理された結果、平成7年8月31日、「登録第841398号意匠の登録を無効とする。」との審決がなされ、その謄本は、同年9月13日、原告に対し送達された。

2  審決の理由の要点

(1)ア  本件意匠は、願書の記載及び願書に添付した図面の記載によれば、意匠に係る物品を「ふとん・畳乾燥用支持枠」とし、その形状を別紙第一のとおりとするものである。

イ  これに対し、請求人(被告)が本件意匠の無効の理由として引用した意匠は、本願意匠出願前の昭和62年10月20日に頒布された昭和62年実用新案出願公開第165138号公報(考案の名称は「畳・ふとん兼用乾燥車」、以下「引用公報」という。)に記載されたものであるが、そこには、本願意匠に対応する「ふとん・畳乾燥用支持枠」の意匠(以下「引用意匠」という。)が示されており、その形状は別紙第二のとおりである。

(2)  そこで、本件意匠と引用意匠とを比較すると、

ア 両意匠は、その意匠に係る物品が、移動用の畳・ふとん乾燥車等に組み込まれる乾燥用の支持枠であって、車両の乾燥室に収納して乾燥を行い、乾燥の前後において乾燥室から支持枠の取り出しを可能とするものであって、同一の物品である。

イ 両意匠の形態については、以下のとおりの共通点と差異点が存在する。

(ア) 両意匠の全体の基本的な構成についての共通点両意匠は、丸棒状(又は丸パイプ状)の材料を主に用い、これを接合して、そのほとんどを形成したものであって、その左側面図を正面として捉えるならば、上方から見て輪郭が偏平な略横長直方体状の台枠上に、正面から見て略横長方形状の枠体を前後に4枚平行状に立設し、台枠には、略円筒状であり、かつ略横長直方体の短辺と略同長である摺動用のローラーを、略等間隔かつ略横長直方体の短辺と平行に付設し、台枠の下側右方の、側方から見て左右対称部位に、正面から見て略偏平逆台形状の枠部を設け、その右下端部位に車輪を付設した態様のものである点が共通する。

(イ) 両意匠の各部の具体的な態様についての共通点

両意匠において、前記のとおり左側面図を正面とした場合、台枠の略横長直方体状が、横幅を奥行きの略3倍、高さを奥行きの略6分の1の比率のものとしている点、摺動用ローラーが、台枠の下桟上の4箇所(右端部、右端寄り略4分の1の部位、略中央部、左端寄り略4分の1の部位)に設けられている点、台枠上に立設された4枚の枠体が、その長さを台枠と同長、高さを長さの略3分の1としている点、そのうちの最前部及び最後部の枠体が、右辺を台枠の下方に延ばして脚枠とし、その下端に車輪を付設している点、4枚の枠体のうち、内側の2枚の枠体については仕切り枠とされている点、4枚の枠体の略左右中央部及び左端寄り略4分の1の部位に、縦方向の支柱を設け、4枚の枠体の右上端角部を角丸状としている点、4枚の枠体の立設する部位について、側方から見て、脚枠が台枠の左右端から略6分の1の内側、仕切り枠が左右端から略3分の1の内側とされている点、2枚の仕切り枠のうち、正面から見て左辺の上端寄りの部位が、横桟(以下「上部横桟」という。)により接合されている点がいずれも共通する。

(ウ) 両意匠の差異点等

両意匠は、<1>脚枠の左辺の上端部について、引用意匠がわずかに上方に突出した態様のものであるのに対し、本件意匠においては、その突出がない点(以下「差異点<1>」という。)、<2>仕切り枠を接合する上部横桟について、本件意匠は仕切り枠のみを接合するものであるのに対し、引用意匠は、仕切り枠のみでなく、脚枠をも合わせて接合するものである点(以下「差異点<2>」という。)において、主として差異が認められる。

また、<3>本件意匠は、正面図及び底面図によると、台枠中に、上方からみて横方向に4本、縦方向に3本の中桟が存在するが、引用意匠は、その記載によっては、その態様が判然としない(以下「差異点<3>」という。)。

ウ そこで、両意匠の上記の共通点及び差異点について検討するに、

(ア) 差異点<1>は、全体からみれば細部の態様の差異にすぎず、引用意匠に存在するものが本件意匠には存在しないものであって、本件意匠の特徴点ということもできず、両意匠の類否判断に及ぼす影響はほとんどないものと認められる。

(イ) 差異点<2>は、同位置に横一線状に存在する横桟の長さのわずかな差異にすぎず、この差異が本件意匠に格別の特徴を与えているものでもなく、両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱なものに止まるものと認められる。

(ウ) 差異点<3>については、両意匠に係る支持枠とも、台枠を、乾燥室の床面に設けたローラー上において滑らせて使用するものであることからみて、引用意匠においても、本件意匠と近似する中桟が設けられているものと推定され、また、たとえその態様に相当の差異があったとしても、全体の基本的構成及び各部の具体的な態様の共通点がその差異を圧するものと認めるのが相当である。したがって、差異点<3>が両意匠についての類否判断を左右するものとはいい難い。

(エ) そうすると、前記の各差異点は、これらがまとまったとしても、両意匠を別異のものとするほどの効果を有するものとはいえない。

これに対して、前記の共通する点は、両意匠の形状の基調をなす全体の基本的構成及び各部の具体的態様の主要部を占めるものであって、これらが合わさることによって、両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼすものというほかはない。

エ 以上のとおりであって、両意匠は、意匠に係る物品が同一であって、その形状につき、共通点が差異点を凌駕するものであるから、類似するものといわざるをえない。

(3)  したがって、本件意匠は、意匠法3条1項3号の意匠に該当し、その登録は、同条項の規定に違反してなされたものであるから無効とすべきである。

3  審決を取り消すべき事由

「審決の理由の要点」のうち、(1)、(2)ア、イ、ウ(ア)については認め、ウ(イ)、(ウ)、(エ)については争う。

審決は、差異点<2>における枠体の上部に接合された上部横桟について、本件意匠が引用意匠とは美感を異にすることを看過するとともに、差異点<3>における引用意匠の内容について、その認定判断を誤ったことにより、両意匠が類似すると誤って判断したものであるから、違法であり、取り消されるべきである。

(1)  差異点<2>について

ア ふとんの乾燥用支持枠自体は、本件意匠の意匠登録出願前から存在している(例えば、昭和47年特許出願公告第4885号公報)。そして、この種のふとん乾燥用支持枠においては、ふとんを逆U字状に支持するために、複数の脚枠や仕切り枠を機能上不可欠としており、また、それらの枠は、通常、垂直状態で向き合う形態として、パイプ状のものによって組み立てられている。

イ 本件意匠における特徴的な部分は、ふとんの支持だけでなく、畳の乾燥にも兼用できるような構成、すなわち、脚枠や仕切り枠の下方部分において、その対向面に対し直角方向(横方向)に複数のローラーを設けるとともに、たたみが必要以上に後部に飛び出さない様に、下部下桟と併せて、上部横桟を設けた点にある。

ウ そして、この種の乾燥用支持枠は、乾燥車の乾燥室に組み込まれたとき、側方からは見えない状態となり、乾燥車の後ろ扉を解放することによって、常に、正面から見る形態として把握される。そのため、枠組みの下方部分のローラーの存在及び仕切り枠の間の上部横桟の存在が極めて重要な美的ポイントとなる。

この理由から、本件意匠における審美的特徴は、支持枠を正面から見たとき、又は、支持枠を乾燥車の後方に引き出して、それを乾燥車と地上との間に斜めの状態に架け渡し、正面斜め上方又は正面斜め側方から見たときに現れる形態にある。

エ しかるところ、引用意匠の支持枠は、上記と同様の方向から見るとき、本件意匠と異なっている。

上記の方向から見るとき、本件意匠の上部横桟は、左右の脚枠の間に置かれた一対の仕切り枠の間にのみ架け渡されていて、左右の脚枠には架け渡されていない。

これに対し、引用意匠の上部横桟は、枠組み中央の左右の仕切り枠のみならず、枠組み外側の左右の脚枠の部分にも連続する状態で取り付けられている。

この結果、この部分を上記正面から見ると、本件意匠では、隣り合う脚枠と仕切り枠との間が、ローラーの位置から上部に達し、しかも上部で完全に開放している。しかし、引用意匠では、連続的な上部横桟の存在によって、隣り合う脚枠と仕切り枠との間が開放しておらず、閉じた形態として視認される。

オ 本件意匠及び引用意匠は、枠組みの下方の部分でほぼ同じ位置にローラーを有している点で共通しており、この部分の重量感は、正面図又は背面図において、下方の重心の存在とともに、安定な形態として認識される。こうしたデザイン的に安定な形式のもとで、左右の隣り合う脚枠と仕切り枠との間の上方部分が開放しているという形態は、まさに下方に存在するローラーとともに美的外観のポイントをなしている。

カ このように、本件意匠は、畳、ふとん兼用の支持枠についてのものであるため、機能上必要不可欠な枠組みの一部分について引用意匠と共通しているが、上部横桟の取り付け形態によって引用意匠と相違している。

したがって、両意匠の特徴が最も現れやすい方向から見たとき、すなわち正面から見たとき、本件意匠と引用意匠とは美的外観において非類似というべきである。

(2)  差異点<3>について

ア 本件意匠については、その支持枠を平面的に見たとき、支柱の下端部分に、ローラーと平行な状態で補助桟が設けられているのに対し、引用意匠では、その補助桟の存在は不明である。

したがって、本件意匠は、ローラーに沿う補助桟の有無によって引用意匠と相違しているから、両意匠は、前記(1)と同様に、その正面から見た美的外観を異にし、非類似というべきである。

イ(ア) 意匠の同一ないし類似の判断にあたっては、その前提として、意匠の全体的な形態が正確に認識されなければならない。意匠法3条1項2号における「刊行物に記載された意匠」とは、視覚を通じて把握できる程度に、当該刊行物の記載から認定できる意匠を指す。

(イ) ところが、引用意匠が記載された引用公報においては、支持枠(枠組み)の全体的な構成、とりわけその平面や底面等が記載されていない。

したがって、引用意匠のその部分の構成は不明であり、引用公報から、「畳・ふとん兼用支持枠」のすべての美的な外観を正確に把握できず、完成された意匠を認識することができないから、引用意匠は、本件意匠との類否判断の基礎とはなり得ない。

なお、原告は、被告の反論にあるように、意匠の態様について、常に6面図を要すると主張するものではなく、引用意匠について、平面図及び底面図方向からの意匠の具体的構成態様が視覚を通じて把握できる程度には至っていないとするものである。

(ウ) これに対し、審決は、平面図や底面図等の具体的に記載されていない部分について、その態様に相当の差異があったとしても、全体として大きく異なることはないと認定するが、その部分の構成が大幅に異なってくるならば、引用意匠全体の美的外観も当然に異なってくるものというべきである。

ウ 以上のとおりであるから、審決における差異点<3>についての認定判断は誤りである。

第3  請求の原因に対する認否及び被告の主張

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)の事実は認める。

2  同3(審決を取り消すべき事由)は争う。

審決の認定、判断は正当であり、審決に原告主張の違法はない。

(1)  差異点<2>について

ア 両意匠の要部は、本件意匠の別紙第一「左側面図」と、引用意匠の別紙第二「第1図」を基準に、意匠の形状等を判断した上で認定されるべきである。けだし、下部に車輪等を設けた移動させるための物品(例えば、自動車、自転車、運搬機器等)の場合、移動方向の側面の形状が看者の注意を最も引く部分となるからである。

両意匠に係る物品も、ともに下部に車輪を有しており、所定範囲内を前後に移動させて使用する乾燥用支持枠である。しかも、ふとんや畳を乾燥させる際に、作業者が、支持枠を乾燥室から引きずり降ろし、あるいは乾燥室に押し戻すという作業をするのであるから、「正面」は機能本位となり、「側面図」の形状こそが看者の最も注意を引く部分、すなわち、要部となるのであって、この側面図の形状を要部として把握することの方が極めて自然であり、常識的な捉え方である。

イ 両意匠において上部横桟の形状に差異があることは認めるが、これらの差異は細部の態様についてのものであるにすぎず、両意匠の類否判断に及ぼす影響はほとんどない。

むしろ、引用意匠の別紙第二「第1図」の形状は、本件意匠の別紙第一「左側面図」の相似形をなすものであり、そのことからも、両意匠の同一性又は類似性を認識できるところである。

(2)  差異点<3>について

意匠法3条1項2号における「刊行物に記載された意匠」について、必ずしも意匠出願に係る意匠のように6面図が揃っているものでなくとも、それに該当するものとして認める旨の解釈が一般になされている。

けだし、仮に、上記のとおり6面図を要するとするならば、「刊行物に記載された意匠」における「刊行物」としては、日本あるいは韓国等の特許庁発行の「意匠公報」以外のほとんどの刊行物が含まれなくなってしまうからである。

このことは、意匠の形状を認識する場合、必ずしも6面図のすべてが必要とされるわけではないことを意味しているものと考えられる。すなわち、対比すべき意匠の要旨が、形態上の主要な部分、あるいは意匠の本質部分を対比可能な程度に記載しているものであるならば、「刊行物に記載された意匠」として認めることができるということである。

そして、引用意匠については、当業者であれば、別紙第二を見ることにより、その意匠の形状はもちろんのこと、その各部の詳細な構成態様についても十分に理解することが可能である。

したがって、引用公報に平面図や底面図が記載されていないことだけを根拠として意匠の具体的な構成態様を明確に把握できないとする原告の主張も失当である。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第1  請求の原因1の事実(特許庁における手続の経緯)については当事者間に争いがなく、同2の事実(審決の理由の要点)については、被告において明らかに争わないから自白したものとみなす。

また、本件意匠及び引用意匠が、意匠に係る物品及びその形状をそれぞれ審決記載のとおりとすること、両意匠に係る物品が同一のものであること、両意匠の形態について、審決記載のとおりの共通点と差異点が存在すること、そのうち、差異点<1>が両意匠の類否に影響を及ぼすものではないことについても当事者間に争いがない。

第2  そこで、原告主張の審決取消事由について判断する。

1  差異点<2>について

(1)  まず、両意匠の要部を認定するにあたり、その態様がどの方向から観察されるべきかについて当事者間に争いがあるので、その点から検討するに、

ア 成立に争いのない甲第2号証(本件意匠についての意匠公報)及び甲第3号証(引用公報)によると、両意匠に係る物品である「ふとん・畳乾燥用支持枠」は、その脚枠と仕切り枠の上にふとんを逆U字状に掛けたり、各枠体の間に畳を入れてそれを枠体に立て掛ける等した上、自動車内に設けられた乾燥室の内部に、別紙第一記載の「左側面図」の左側方向(以下、その方向を「左側面図左側方向」という。両意匠に対するその他の部位、方向についても、同様に、別紙第一における各図面の記載に基づいて特定することとし、「別紙第一」の記載を省略する。)から収納し、その乾燥室の内部において、ふとん、畳を加熱して乾燥させるものであること、また、上記支持枠に対するふとん、畳の積み入れ、積み降ろしにあたっては、通常、乾燥室から、支持枠の左側面図右側(正面図側)だけを地上に引き下ろして行うものであること(別紙第二第1図参照)が認められる。

イ 以上の事実からみるならば、両意匠に係る物品の取引者、需要者は、支持枠の上記のような用途、使用形態に照らし、支持枠の正面方向と側面方向から物品を観察するものであり、原告及び被告の主張のように、そのいずれか一方からのみ観察するということはできない。

(2)  その上で、両意匠の要部について検討するに、上記の観察方向による支持枠全体の形状及びその用途、使用形態等からみるならば、両意匠の特徴を最もよく表し、看者の注意を引く部分は、両意匠に共通する意匠の基本的な構成に係る部分(基本的構成態様、請求の原因2「審決の理由の要点」(2)イ(ア))と、具体的な態様(具体的構成態様)のうち両意匠に共通する部分(同(2)イ(イ))にあるものというべきである。

(3)  以上によれば、両意匠において、左側面図方向左側の枠体の上端寄りに取り付けられた上部横桟により、各枠体が接合された態様も、その要部に含まれるものというべきであるが、なお、その接合態様については、両意匠において、原告主張のとおりの差異があり、本件意匠においては、上部横桟により仕切り枠のみが接合されているのに対し、引用意匠においては、仕切り枠のほか脚枠をも併せて接合されているところである。

(4)  しかしながら、両意匠を正面図方向から見た場合、4枚の枠体のうち中央部分に位置する2枚の仕切り枠同士の間隔は、その両側における脚枠と仕切り枠との各間隔の約2倍とされており、両意匠における上部横桟は、その中央部約2分の1の部分について共通するものであること、したがって、引用意匠の上部横桟においても、上記共通部分の占める位置及び長さからみて、その部分が横桟の形態の中心をなすものというべきであり、そのため、本件意匠の上部横桟において脚枠と仕切り枠との間の横桟部分を欠いたとしても、引用意匠に比べて、そのことが特に目立つものとはいい難いこと、更に、両意匠における、上部横桟を含む支持枠全体の枠組みは、丸パイプ状の材料により組み立てられており、ふとん、畳を積み込むだけの大きさを有するものであることから、その中にあって、両意匠における上部横桟についての差異とされる部分は、全体のわずかな部分を占めるにすぎないというべきであること等を考慮するならば、本件意匠において2枚の仕切り枠の間のみに渡された横桟は、仕切り枠のほか脚枠をも併せて接合した引用意匠の横桟と比べて、看者に対し、格別強い印象を与えるものではなく、この差異点によって、前記(2)認定の構成上の共通点から生じる美感が左右されるとは認められない。

そうであれば、両意匠の上部横桟についての相違は、要部におけるものではあっても、わずかな差異に過ぎないものというべきであり、看者に対し、異なる美感を与えるものとはいい難いところである。

そして、そのことは、原告が主張するように、両意匠の台枠上にローラーが存在することを考慮したとしても、同様というべきである。

(5)  したがって、両意匠における上部横桟の態様の違いにより、両意匠が美感を異にするものと認めることはできない。

2  差異点<3>について

(1)  アの主張について

本件意匠においては、台枠中に中桟が設けられており、引用意匠においては、その点が不明であることについては、前記第1のとおり当事者間に争いがなく、また、前出甲第2及び第3号証に照らすならば、原告の差異点<3>アの主張に係る補助桟とは上記中桟に該当するものと解されるところ、上記甲第2号証によると、本件意匠においては、台枠の下桟上に置かれた4本のローラーのうち、左側面図方向から見て、略中央部、左端寄り略4分の1の部位における各ローラーに沿って、それぞれ補助桟が設けられていることが認められる一方、引用意匠においては、上記甲第3号証の記載に鑑みると、本件意匠と同一箇所に上記補助桟が設けられているか否かは明らかではない。

しかしながら、両意匠の要部は前記1(2)に認定のとおりというべきであり、本件意匠における補助桟の存在については、本件意匠全体の態様からみて、看者に対し格別強い印象を与えるものと認めることができないところであるから、結局、両意匠における上記補助桟の存否及び態様は、いずれにしても、両意匠のもたらす美感について差異を生じさせるものではないというべきである。

そうであれば、引用意匠における補助桟の存否が不明であることを理由とする、原告の差異点<3>アについての主張は、両意匠の類否判断に影響を与えるものではなく、原告の上記主張は失当である。

(2)  イの主張について

引用意匠について、平面図及び底面図の開示がなく、補助桟(中桟)の態様が明らかでないことは前記第1のとおり当事者間に争いがない(なお、前出甲第3号証の記載に照らすならば、上記以外の引用意匠の態様は引用公報から明らかというべきである。)。

しかしながら、両意匠の正面図方向及び左側面図方向における類似の形状からみて、引用意匠における平面図及び底面図の形態のみが本件意匠と大きく異なっているものとも解されない上、そもそも、本件意匠及び引用意匠の要部が両意匠の共通部分にあるものというべきであることは、前記1(2)に認定のとおりである。

そして、本件意匠における上記平面図及び底面図の態様が看者の格別の注意を引く部分とはいえず、意匠の要部にはあたらないものというべきであることは(1)と同様であるから、その部分における差異の有無は、両意匠の類否の判断に影響を与えるものではないということになる。

そうすると、引用意匠における前記態様が不明であるとしても、そのことが両意匠の類否判断に影響を及ぼすものとはいえないから、引用意匠の前記態様が不明であることを理由とする原告の主張も失当といわざるをえない。

3  以上のとおりであるから、審決が両意匠をもって類似するとした判断には原告主張の誤りはないものというべきである。

第3  よって、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 関野杜滋子 裁判官 持本健司)

別紙第一 本件登録意匠

意匠に係る物品 ふとん・畳乾燥用支持枠

説明 本物品は、自動車などの乾燥室の内部に引き出し可能な状態で設置され、2つの仕切り枠にふとんを逆にU字状に掛けたり、仕切り枠の間で複数の畳を立て掛け状態のまま支持するために用いられる。支持状態のふとんまたは畳は、乾燥室の内部で、ダニなどの害虫の駆除のために、適切な温度に加熱される。

右側面図は、左側面図と対称にあらわれる。

<省略>

別紙第二 引用意匠

意匠に係る物品ふとん・畳乾燥用支持枠

<省略>

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